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 どこかの昔の映画監督が残した言葉だ。

 恋仲というのは夕食を二人きりで三度してそれでどうにもならなかったときは 、あきらめろ

 I fell in love with him on the third time dinner!


   「ほらよ」
 そう言って手渡されたコンビニ弁当をじっと見つめる。並盛ストアの499円の和風ハンバーグ弁当だ。
 「食わねぇのか?俺の奢りだぜ」
 ただじっとコンビニ弁当を見つめる姿を不審に思ったのか、ディーノは隣に腰を降ろし、首を傾げて僕の顔を覗き込んだ。
 「どうした?」
 弁当から顔を上げ、男を見つめた。
 「あなた金ないの?」
 夕飯がコンビニ弁当一つなんて安すぎる。夕飯は一日で一番豪華な食事であるべきだ。それに、コンビニ弁当は保存料の味が気に入らない。僕の舌はこんなものでは満たされない。

 ディーノは、んー、と少し唸ってから僕の頭を軽く叩いて笑った。
 「それじゃ不満か?ハンバーグ好きだろ?」
 「…別に」


 ハンバーグに免じて、今日は我慢しようと思う。
 やたらと明るいその笑顔に見つめられながら、僕はハンバーグを頬張った。


   ご飯を半分残して食べ終わった頃、聞き慣れないハミングが耳に届いた。
 隣に座っている外国人に目を向けると、しば漬けを食べながら鼻歌を歌っていた。夕日に照らされて、いつも金色の髪が橙色に透けてとても綺麗だ。

 こちらの視線に気がついたディーノが鼻歌をやめ、こちらを向いた。そして何を思ったのか、自分のハンバーグ半分を僕の梅干しが乗ったご飯の上に乗せてきた。
 彼を睨んだら、にっこりとした笑顔で返された。それを見て何も言えなくなって、もらったハンバーグを口に押し込んだ。いいよ、今はあなたのエゴとハンバーグに付き合ってあげてもいい。


 空の弁当箱に巻かれた輪ゴムを指ではじく。べんべん。そして、その輪ゴムの音と彼の鼻歌が重なった。妙なデュエットだ。空が橙から藍色のグラデーションに変わり、一際、音が耳に響いた。
 そして、ふいにその二重奏が止んだ。

 「なあ、恭也って好きな奴いねぇの?」
 鼻歌のように風に乗って聞こえてきた台詞に、輪ゴムをはじく指を止める。

 「僕、手作りのハンバーグが好きなんだけど」
 「ちょっとは、人の話を聞けよ」
 そう言って、キラキラした髪を揺らしながら口を尖らせた。
 「あと、デザートに寿司が食べたい」
 「寿司はデザートじゃねえ!」
 そんなの僕には関係ない。すっと立ち上がり、トンファーを構えた。
 「ねえ、さっきの続きしようよ」

 その姿を見て、一瞬目を丸くしたディーノがわざとらしく盛大な溜息を吐いた。
 こういう態度が癪に障るんだ。それなのに咬み殺せないから余計に腹が立つ。だから僕はこの人が嫌い。

   「なんでお前ってこうなの?」
 挑発的にゆっくりと、台詞を吐く。

 「あなたが嫌いだから」

 それを聞いてディーノは飴色の瞳を揺らして、少し下を向いて笑った。いつもと違った眉を歪めたえげつない笑顔だ。
 背中がぞくぞくする。楽しめそうだ。乾いた唇を舐めて潤わす。
 そして、屋上のコンクリートを蹴って一気に距離を詰める。


 「…ボス、ホテルの予約取れたぜ。…って取り込み中か」
 入って来たこの人の部下を目で確認した時、僕は下敷きにされていた。腕を拘束され、背中に体重をかけられ完全に地面に突っ伏した状態だった。

 「うぐっ」
 声を上げると肩甲骨を膝で押された。圧迫されて呻き声が上がりそうになるのを、下唇を噛んで抑える。
 突然、体重が軽くなったと思ったら、耳元で息を吐かれた。
 急いで体を回転させ、拘束から逃れ、一気に距離を取る。そして、耳を抑えた。
 その姿を見て満足そうに男は笑った。
 はっきり言って悪趣味だ。耳がむず痒い。
 「俺は好きだぜ、恭也」

 先ほど耳元で囁かれた声が耳に焼きついて離れない。一生忘れられない屈辱の言葉だ。

 屋上で食べたコンビニ弁当。
 初めて食事はあれだった。
 あの日、僕はディーノに告白された。



 曇りのち晴れになる。今朝の天気予報ではそう言っていた。しかし、先ほどまでばらついていた雨も、今となってはどしゃぶりに変わっていた。そして、その天気予報を見た人間ならもちろん傘を持たずに出かけるわけで、現在、雨宿りのための場所を探すために急いでいる。

 この交差点を右に曲がれば喫茶店がある。
 ようやく店の前に着いた。息を整え、軽く手で水を掃う。それから、ドアを開けた。
 同じように天気予報に騙されたのだろう、店内は満席だった。席が空いていないのならば作ればいい。調度良い獲物を探すために店内を歩き回る。老人は駄目だ。すると、奥の窓側の席にちょうど良く群れている学生を発見した。
 その方向に向かおうとした時、突然、下方から声をかけられた。

 「あのー…」  声のする方に視線を向けると、確か前にインタビューだとかでいろいろ聞いてきた女子だった。 目が合うとにっこりと笑って首をかしげた。
 「…雲雀さんも雨宿りですか?」
 「…別に」
 「お席空いてないでしょう?良かったらどうぞ」
 そういって向い側の空いた席を指さした。女子の顔を一度見てから空いた席に腰を下ろした。
 目の前の少女は機嫌良さそうにショートケーキを口にしていた。テーブルの上にはショートケーキの他にも色とりどりの甘味が置かれている。チョコレートサンデー、白玉あんみつ、チーズケーキ、そして、ホットミルクティー。女子というのは見かけによらずよく食べるらしい。見ているだけで胸焼けしそうだ。
 

 「あ、そうですタオル」
 ふと、思いついたように手を叩いて、鞄をあさり始めた。
 「いらない」
 その言葉を無視して、女子は鞄の中身をひっくり返してい続けていた。そんな姿を横目で見ながら溜息を吐く。窓の雫と雫がくっついては硝子を伝って流れ落ちている。外はまだどしゃ降りだ。

 「はい」
 タオルがばさりと頭にかけられた。タオルを手で押さえたまま前を向く。

 「早く吹かないと風邪引いちゃいますよ」
 そう言って優しく、笑った。なんだかもどかしくて僕はその笑顔から視線を反らした。あの人に似た笑い方だ。浮かんできた金色をかき消すようにぐしゃぐしゃと髪を拭いた。

 そして、一通り拭いた後、タオルを首に巻き、ワイシャツの中に入れた。
 窓を見ながら、雨が止むのを待つ。
 「あの…」
 か細い声を雨音の中から聞こえて、少女の方へと視線を戻した。今度はチョコレートサンデーを食べている。

 「あの…雨って一人だとすっごく冷たく感じません?」
 少女はチョコレートサンデーを食べる手を止めて、俯いてしまった。

 少し沈黙をおいてから、また下を向いてぼそぼそと話し始めた。
 「…ハルはツナさんと一緒に相合傘して帰りたかったんです」
 言い終わると、ふいっと顔を上げ、水滴の付いた窓ガラスに指を這わした。大きな上向きの矢印を描いた右下にさわだつなよしと文字を書いた。そして線を挟んで左側に指を置いた。だが、何も書かずに指を下ろした。

 「今日の雨は嫌いです」

 その言葉を聞きながら、僕は軽く溜息を吐いてから、目の前にあった白玉あんみつを手に取った。
 「…それは、君が望む出来事と違う事が生じたからだろ。雨のせいじゃない」
 「それ、ハルのです」
 そういって、指された白玉あんみつを一口スプーンで掬って口にした。
 「…それで?」
 頬を膨らませ、なんだか文句言いたげな顔をしながら吐き捨てるように言った。
 「……違います。それに、いつも見ているはずの並盛町なのになんだか違う世界に感じます」
 車の音。暗い路地。色とりどりの傘。ただ、今日は少しスモークがかかったように霞んで見える。きっと、どしゃぶりだからじゃない。

   「…別に」
 「私は雲雀さんとは違いますから」
 「…だろうね」
 白玉あんみつの最後の一口を口に入れて、空になった器をテーブルの上に置いた。器に少女が顔が逆さまに映った。切ない顔だ。

 「あの…雲雀さんは好きな人いないんですか?」
 ふと、前にあの人に同じことを聞かれたのを思い出す。好き好きってうるさいくらいにあの人は僕にうるさいくらい言っていた。

 「ねえ…君の言う好きって何?」
 すると、突然顔を赤らめて、少し慌てて、それから胸を両手で押さえ落ち着いた。
 「えーっと、ですねー。胸がこう、きゅうって苦しくなっちゃうんです」

 苦しい。それは知ってる。この間、一度だけ味わった感情だ。


 二人でピザを食べたその日
 僕はディーノとキスをした。



 あの人が泊まっているホテルで宅配のピザを食べた。一人じゃ食べきれないからって、ディーノに半ば強制的に連れ込まれた。
 ピザを食べながら色々な話を聞かせてきた。マルゲリータは女王の名前からとったピザとか、どうでもいいようなことを教えてくる。でも、赤ん坊を交えた昔話もしてくれた。
 ピザを片手にベッドの端に座り、足をパタパタと揺らしながら話に聞き入る。

 「俺の誕生日にロマーリオとリボーンがさ…あっ!」
 僕が最後のピザに手を伸ばすと同時に声が上がった。けど、その声に気にも留めずにピザに齧り付いた。

 「お前、それ最後の一枚…」
 「それが?」
 「俺の金だろ!よこせよ」
 「やだ」
 ぷいと、横を向いた。こないだはハンバーグを自分からくれたくせに。今日は人の手にしている食べ物を欲しがるなんて本当変な人だ。ムカつく。

 「なあ、恭也…」
 「あげないよ」

 沈黙の中、ただ視線だけが絶えずに注がれて続けていた。
 ふと、すぐ脇で唇が開く音がした。

 「…恭也、好き」
 その言葉にピザを食べる手を止める。

 「好きだ」

 体中の血液がどくどく鳴って、警告する。だめだ。


 唾を飲み込んだ瞬間、視界が反転して、僕はふかふかした布団の中へと沈んだ。
 これは、知らない。



 「…んっ」




 あの日、ディーノはいとも簡単に僕の隙をついて懐に入り込んだ。そして唇に、僕は唇の形を指でなぞった。唇が触れ合った瞬間、確かに胸が苦しかった。

 「雲雀さんの好きな人は…「嫌いだよ」
 口元に手を当てて少し考えてから、首をかしげた。
 「でも信じているんでしょう?その人のこと」
 「自分以外信じてないよ」

   吐き捨てるように言えば、少女はきょとんと顔をしてから、口に手を当てて笑った。
 「雲雀さんはおもしろいですね」
 「……君もね」
 はい。そう言って機嫌よさそうに笑った。
 「雲雀さんにとって、恋って何ですか?」

 恋。
 苦しい、違う。
 楽しい、違う。
 春、違う。
 欲求、違う。
 好き、違う。
 嫌い、嫌い。


 「…咬み殺す」
 「はひぃ!?」
 三浦ハルは目を見開いて、ばっと、僕から距離を取った。

 「君は馬鹿だね」
 「ハルは馬鹿じゃないです!」

 頬をふくらました彼女から視線を反らし窓を見る。
 「あ、晴れた」
 透明なガラスを通した向こうに太陽が輝いていた。

 「じゃあ、僕は行くよ。さっきから携帯が鳴ってうるさいんだ」
 伝票を持って立ち上がり歩き出す。

 「雲雀さん!ハル頑張ります!!」
 後ろから聞こえた声が耳をすり抜けていった。弱い奴が頑張るのは意味がないと思う。ただ、悲しいことではないと思う。


 そして、ゆっくり駅へと向かった。
 駅前の道路に真っ赤な外車がどうどうと止められていた。そのすぐそばに、派手な外国人を一人発見した。
 眉毛をハの字に曲げて、携帯の画面をじっと見つめている。馬鹿な人だ。
 「ねえ、ここ路上駐車禁止なんだけど」
   「のあ!?」
 驚いた彼の手から携帯が落ちた。がっしゃん。硬いコンクリートに落ちたから壊れたかもね。

 「恭弥…どこから?」
 「さあ?携帯の中からじゃない」
 「…何だそれ?」
 そう言って首を傾げた彼から視線をそらす。自分で言ったことが少し恥ずかしくなってしまった。

 「僕はいつだって、好きな所から現れるんだよ。それより、用って何?」
 「…んー」
 「何?」
 「いやー…」
 ぼけた発言にイライラして、口調を強めた。
 「だから、何?」
 「…ちょっと、大人げないからさ」
 「そんなの知ってるよ」
 その上、馬鹿でストーカーなのも知ってる。

 「わかってるよ、そんなの」

 「…お前さ、学校近くの喫茶店でハルと…」
 その、と申し訳なさそうに言葉を口にするディーノの顔を見つめる。視線に気づいたのかぱっと目が合って、またすぐにそらされ、目線を落とされた。
 本当に、本当に馬鹿な人だ。

 少し染まったその頬を両手でそっと挟み上を向かせる。
 「おい、きょ…

 精一杯背伸びして顔を近づけて、その言葉を塞いだ。


 「僕はそんなあなたに興味がある」

 この人は綺麗な顔を歪めて泣きそうな顔をして、ぎゅっと僕の腰の当たりを抱きしめた。
 「…濡れるよ」
 「いいぜ、それよりハルみたいな甘い匂いがする」
 「咬み殺すよ」
 「別に構わない」
 「ねえ、寿司が食べたい」

 口でとろけるかんぱちをあなたと。
 僕はその日、この男に恋をした。




 いつもより少し軽い足取りで廊下を歩く。洗濯した熊のタオルを持って。そして二年A組の教室の前で立ち止まった。
 「沢田綱吉」
 騒々しい教室に声を響かせた。
 一瞬にして凍りついた室内の中で一人だけ、動き出した生徒ゆっくりとぎこちなく動く生徒瞳にうっすら涙を浮かべながら近づいてきた。
 そして、僕はタオルを草食動物に押し付ける。

 「沢田綱吉、これを…



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目指せ、優しい雲雀で書きました。
巻末のハルと雲雀さんの絡みが好きすぎて書いたけど、ハルのキャラつかめねえ!!!!
そして、なんか短い割に書きあがるまでかなり時間がかかりました。
あ、あと英語間違ってたら教えて下さい。(英語難い…)


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