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油の独特の匂いを嗅ぎながら、キャンバスに筆を滑らせる。窓の外に咲いた桜を描いていた。灰色や黒で画面を埋めていく。
「お前はいつも黒と白しか使わんのだな」
後ろから聞こえてきた声に筆を止めた。
「いつも落書きしてる人間にそんなこと言われたくないよ」
「落書きなどではない!!芸術だあ!!!!!」
この絵に無縁の生活を送っていそうな男、笹川了平は唯一の美術部員だ。うるさいし、絵は絵の具を撒き散らしただけだし、面倒くさい人間だと雲雀は思う。
「ちょっと、耳元で大声出さないでよ」
「なんだと!?」
笹川了平と舌戦を戦わすのは何も今日が初めてという訳ではなく、むしろ起きない日の方が少ない。
「やるなら相手するよ」
「表に出ろ!!」
それでそのうち殴り合いになるのも、よくあることで、今年もそんな生活を送るのだと思っていた。
「誰か…いるか?」
雲雀がトンファーを構えた時、突然ドアが開いて、廊下の空気が流れ込んできた。その風によって油絵の匂いが払拭されて、代わりに花みたいな良い匂いが広がった。
心地の良い匂いと共に現れた、きらきらした金髪。均整のとれた顔立ち。
絵に描いたような綺麗な人。本当にこの人は絵から出てきたのではないかと雲雀は思う。その証拠に身体が痺れて動かなくなってしまった。完全に目を奪われていた。
「えっと、美術部の奴だよな?二人だけか?」
その形の良い唇からこぼれた言葉によって、甘美な魔法がとける。糸がふっつり切れたみたいに時間が流れだした。
「我が美術部は、俺と雲雀の二人だけだあ!!!!!」
「ちょっと、僕は美術部員じゃ…」
ない、とそう言おうとした瞬間、肩をがっしり掴まれた。そして、飴色の綺麗な瞳が一層明るくなって、雲雀を見つめた。
「雲雀って、あの白黒の鳥描いた奴だよな!?」
自分が映るキラキラしたその瞳から顔を反らし、軽く頷いた。すると、勢いよく肩を引かれて抱き寄せられた。
強くなった花のにおい酔って、固まってしまった。脳が働かない。
そして、雲雀の頬に柔らかいものが触れた。
「俺はディーノ、よろしくな恭弥?」
放心状態の雲雀にそう言って男は優しく微笑んだ。
「…せ、」
「せ?」
「セクハラ!!!!」
トンファーを思いっきり振り上げ、端正な顔に一撃を沈めた。
床に倒れたその人を踏みつぶして、廊下へと飛び出した。
春風が舞い込む廊下を歩きながら、雲雀はいままで自分の中に存在していなかった鮮やかな黄色を必死に黒く塗りつぶしていた。
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ずっと書きたくてとうとう書いてしまった。
お兄さんを入れたのは言わずとも。
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